多くの人びとのために

 1985年2 月2 日 年次集会 閉会の辞 インド、ダンマギリ
親愛なるダンマの息子たちと娘たちへ
たくさんの人びとがダンマを学ぶ時代が再び訪れました。サヤジ・ウ・バ・キンがおっし
ゃっていたとおり、「ヴィパッサナーの鐘が鳴らされた」のです。ダンマを広く伝えるため
の手伝いをしながら、自分自身のパーラミーを育てていく機会に恵まれた私たちは、なん
と幸運なことでしょう。ダンマは特定の個人や団体の努力によって広がるのではありませ
ん。広がるべくして広がっていくのです。私たちは、伝えるためのただの道具でしかあり
ません。ダンマは驚くべき速さで世界中に広がっています。すべてダンマのもつ力による
ものです。ダンマは偉大で、とても大きな力をもっています。どんなに無力な者にも豊か な力を与え、何もできない者にも優れた能力を与えてくれます。
ダンマは、苦悩から脱け出す時が熟した人びとにとって、大きな助けとなります。そのた めに、これまでの15年、とても多くの人がダンマを広めて他者に奉仕する責務を担ってき ました。実際には、そうした奉仕も奉仕者にとっては苦労ではなく、幸運なのです。こう
して、ダンマはあらゆる予想を超えて、インドのみならず世界各地に広がっていきました。 これはほんの始まりにすぎませんが、幸先のよい、勇気付けられる始まりといえます。
ときどき、「こんな短い間に、よくおひとりでこれほどの仕事をなさいましたね」と言われ
ることがあります。そんなとき私は、「ひとりでは何もできませんでしたよ」と答えていま
す。私が初めてコースを指導してから、多くの人が自ら進んで組織づくりや管理、それ以
外にも必要なあらゆる奉仕に参加してくれました。コースを行うたび、生徒たちが無私の
奉仕を行ってくれました。日常生活でさまざまな責任を負っているにもかかわらず、時間 を割いて人びとのために奉仕をしに来てくれるのです。
運営奉仕者と指導者の関係は、たとえれば荷馬車の一対の車輪、もしくは鳥の一対の翼の
ようなものです。言うまでもなく、運営奉仕者は指導者なくしてダンマを広めることはで
きません。しかし、指導者もまた、奉仕者の協力なくしては、ダンマを広めるために奉仕
することができないのです。私は、最善を尽くして協力してくれた、献身的な生徒たち全
員に深く感謝しています。私がひとりでやり遂げたことなど、ひとつもありません。業績
はすべて、多くの生徒たちのひたむきな奉仕によって成し遂げられたのです。世界各地で、
私と同じように、アシスタント指導者が奉仕者から協力を得ていることを嬉しく思ってい ます。
指導者と奉仕者は同じように重要な存在です。自分の方が大切な役割を負っている、など
と思ってはいけません。もちろん、アシスタント指導者がダンマシートに座る際には、と
もに働く奉仕者は敬意を払います。しかし、これは特定の個人に対してではなく、ダンマ
に対して敬意を払うことで自分の中のよい性質を育むために行うのです。ダンマシートに 座る人は誰であっても、ダンマ、ブッダ、そして 2,500 年もの間、この瞑想法を純粋な形 で保ち続けてきたサンガを象徴しています。そのため奉仕者は、アニッチャ、ドゥッカ、
アナッターを理解し、感覚に意識を向けながら敬意を表すのです。この基本を守り、生徒
がすべきことは、アシスタント指導者が責任を果たせるよう協力することだということを 忘れないでください。
一方、ダンマシートに座る指導者は、自分に対してではなくダンマに対して敬意が払われ
ていること、自分は単にダンマの代理であることを理解し、常に謙虚でいなくてはいけま
せん。奉仕者であれ、指導者であれ、私たちが奉仕をするのは常に、ダンマを広げるため なのです。
アシスタント指導者とダンマの奉仕者は共に、無私の気持ちで何の見返りも期待せず奉仕
しなければいけません。ブッダは「多くの人のためになるように、たくさんの人が恩恵を
受けられるように、世の中に対して慈しみの気持ちを忘れずに道を歩みなさい」と言いま
した。与えられた役割や仕事がどのようなものであっても、何の違いもありません。もっ
と多くの人がダンマの恩恵を受けられるよう役に立ちたい、という純粋な気持ちから奉仕
するなら、どの役割も等しく大切ですし、どのような方法で貢献しても、それはとても尊 いのです。
では、奉仕者たちは見返りに何を得るのでしょうか。なぜ家族から離れ、コースの奉仕を
しにやって来るのでしょうか。彼らは何の報酬も受けず、交通費などの費用も自ら負担し
ています。尊敬されたい、という期待さえもっていません。彼らは完全に無私の気持ちで 奉仕しているのです。
同じように、アシスタント指導者には何の得があるのでしょうか。彼らに示される敬意で
さえ、実はダンマに対するものです。アシスタント指導者はそれをわかっていながら、何
の見返りも期待せずに奉仕しています。ダンマの輪はこのようにして、純粋な形を保った まま回り続けていくのです。
「自らが純粋な生き方をして手本を示すことで、ダンマを広めなさい」とブッダは言いま
した。自ら実践することなくただ教えを説いても、何の意味もありません。アシスタント
指導者やダンマの奉仕者は、率先してよい人生を歩み、人びとに手本を示すことの重要さ
を理解する必要があります。奉仕をする上でどのような役割にあっても、つねにこのこと
を心に留めておきましょう。自らの言動に常に注意することが必要です。自分のために、
そして、人びとのためにも、純粋な人生を歩みましょう。私たちがそのような生き方をす
れば、ダンマへの信頼が薄い人も信頼を抱くようになり、ダンマを信じる人はさらに信じ
る心を強くするでしょう。こうして、さらに多くの人がダンマに興味を抱き、恩恵を受け るようになるでしょう。
ダンマの土台がしっかりしてさえいれば、アシスタント指導者として奉仕をしても、それ
以外の形で奉仕をしても、常に実りあるものとなるでしょう。日々怠らずダンマを修行し、
自らのダンマをしっかりと確立しましょう。そうすれば、多くの人のために、効果的にダ ンマを広める手伝いができるのです。
この世界は至るところ、不幸で満ちています。たとえひとしずくであっても、苦しんでい
る人の涙をぬぐうことができれば、ブッダや、古代からヴィパッサナーを受け継いできた 指導者たち、そしてサンガによって私たちが受けた恩恵に、少し報いることができます。
みなさんが自らのダンマをしっかりと育むことができますように。みなさんがダンマの道
で成長を続け、人びとがダンマの道で成長する手助けができますように。みなさんが奉仕 をすることで、さらに多くの人が恩恵を受けられますように。
ダンマの輪が回り続けますように。ダンマの光が世界中を照らすことができますように。
無知という暗闇が消え去りますように。さらに多くの人が苦しみから解放されますように。
生きとし生けるものが幸せでありますように。安らかでありますように。苦悩から解き放 たれますように